「人生100年時代を生き抜くためには、社会人も『学び直し』が必要だ」などとよく言われる。しかし、元マイクロソフト社長の成毛眞氏は、「40代以降のビジネスマンにとって社会人MBAコースや各種のセミナー、資格取得にはほとんど意味がない。それより必要なのは仕事を『ダウングレード』する覚悟だ」という――。

差別化できるという勘違い

差別化できるという勘違い

【引用】MBA取得で成功した起業家は一人もいない | プレジデントオンライン

無意味な学び直しの最たるものが、「国内MBA」。働きながら、日本の大学などが運営するビジネススクールに通って、経営学修士を取得しようというものだ。なぜ無意味かといえば、世界的に見ても、成功した起業家で、MBAホルダーはほとんどいないからだ。

マイクロソフトのビル・ゲイツ、アップルのスティーブ・ジョブズ、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ、アマゾンのジェフ・ベゾス、アリババのジャック・マー、テスラのイーロン・マスク……。一人もMBAホルダーではない。グーグル元CEOのエリック・シュミットもビジネススクールには行ってないし、セルゲイ・ブリンは、一応ホルダーではあるが、ビジネススクールに通ったのではなく、名誉MBAを与えられただけだ。

ビジネススクールでは、経営戦略、マーケティング、ファイナンスなどを学ぶわけだが、この名だたる起業家・経営者たちのなかで、それを必要だと考えて、学びに行った人は一人もいないというわけだ。この事実だけでも、私はビジネススクールで学ぶことの必要性を感じない。

論理的思考やフレームワークを使った分析のようなビジネススキルにしても、ほかの人との差別化にはまったくつながらないし、現場でも大して役に立たない。スキルなどというのは、所詮、世の中がつくった幻想にすぎないのである。そんな幻想を求めて、ミドルエイジがわざわざ限りある時間を費やして、ビジネススクールに通うのは、じつにもったいないことだ。

かつて私は国内のビジネススクールで教鞭をとっていたが、講義の後に、希望する学生と連れ立って飲みに行くと、「MBAなんて、役に立たない」と伝えていた。とまどっていた学生も、何週間か後にまた飲みに行くと、「成毛さんの言う通りかもしれません。MBAをとれば、なんとかなると思っていましたけど、なんともならないですね」と言っていたものだ。

セミナー受講者から起業家は出ない

国内MBAと同様に、行っても無意味だと思うのは、さまざまなビジネスセミナーだ。営業から人材育成、最新テクノロジーまで、ありとあらゆる分野のセミナーが各地で開催されているが、それを受講したことで、どれだけビジネスの能力が上がったか、冷静に振り返ってみてほしい。本人からすれば意味があったと思いたいだろうが、実際にはほとんど仕事に役立っていないのではないだろうか。

以前、ビル・ゲイツと、ヴァージングループ創業者のリチャード・ブランソンが、ある起業セミナーに登壇したことがある。その楽屋に居合わせたのだが、ビルが「おい、今日は何がテーマなの?」と聞くので、「起業セミナーなんだってさ」というと、ビルとブランソンが爆笑していた。「参加者は3000人いる」と伝えると、もう大爆笑。

なんで笑っているのかと聞くと、「いやあ、この3000人から起業家は1人も出ないよな」「起業のために人の話を聞きに来るなんて頭が悪い」「こんなムダな時間の使い方をするヤツが成功するなら、俺は逆立ちしてやるぞ」と言いたい放題だった。

これを聞いて、あなたはどう思うだろうか。最近は、「オンラインサロン」といって、著名人のもとに集まるコミュニティのようなものもたくさん出てきているようだが、そんなものに入会したところで、活躍できる人にはなれないと思う。


ビジネススクールも、セミナーも、オンラインサロンも、すべてに共通するのは、結局は、何もしていないのに、何かしているように錯覚してしまうことだ。そこで何か得たものを生かして、起業したり、新規事業を始めたりするなら、行った意味があるかもしれないが、そういう人は滅多にいない。大抵の場合は、セミナーに参加して悦に入り、帰り道に一杯ひっかけて、翌朝何も変化をしていない自分と再会するだけだ。
学び直しといえば、「資格取得」をめざす人も多いと思うが、これもまた、無意味な学び直しの代表格といっていい。士業をめざしているなら、大半のものはやめたほうがいい。何十年も営業をやっていて、突然、公認会計士や弁護士をめざすという人が周りにいたら、全力で止めるべきだ。あらゆる士業があと5~10年でAIに取って代わられるからだ。
会計士や弁護士は一部の人がかろうじて生き残れるかもしれないが、司法書士や税理士は全滅する、と私は見ている。行政書士も通関士も厳しいだろう。

プライドを捨て、「ダウングレード」せよ

MBAも資格取得も意味がないとしたら、転職時にアピールできることは、これまでの仕事の実績ということになる。自分には大した仕事の実績もないから、何をアピールすればいいかわからない。そう悩む人は多いだろう。
しかし、悩む必要はまったくない。大した実績などなくても、転職に成功することは十分可能だからだ。その方法は至極簡単なこと。仕事を「ダウングレード」すればいいのである。具体的に言えば、いま勤めている会社より、規模の小さな会社、都心ではなく地方の会社に、あえて狙いを定めて、転職するのである。
おすすめは、経営者が年老いていて、若い後継者どころか、中堅社員がほとんどいないような会社だ。地方でよくみかける中小企業である。2017年度「中小企業白書」によれば、今後10年のあいだに、70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、そのうち約半数(日本企業全体では約3割)の127万社もの企業が、現時点で後継者が決まっていないという。
こういう会社は、後継者、あるいは番頭になってくれるようなミドルエイジをのどから手が出るほど求めている。そうした会社を狙って転職すればよいのである。

このように聞くと、これまで東京の一流企業と呼ばれる会社で働いていた人は、「冗談じゃない」と思うかもしれない。自分にだってプライドはある、「都落ち」なんて絶対したくない。気持ちはわかる。しかし、こうした地方の中小企業への転職が、本当に「ダウングレード」だろうか。
私はそうとは限らないと思う。それどころか、「アップグレード」になることも少なくないのだ。後継者もミドルエイジもいないような会社は、赤字続きで、明日にも倒産するイメージがあるかもしれないが、現実はまったく違う。廃業する中小企業の5割は黒字経営で、後継者がいないために、やむなくつぶれているのである。じつに残念でもったいない会社なのだ。
もともと黒字だったということは、消費者ニーズをしっかり掴んでいて、かつ経営も上手くいっていた可能性が高い。このようなダイヤモンドの原石ともいえる会社に転職し、残された経営資源やブランドをフル活用すれば、地方の超優良企業に復活させることができるかもしれない。まさにシンデレラストーリーではないか。

経営者に出世する道が開けるかも

地方には従業員が10名、20名の優良企業も多く、大企業に勤めていた人からすれば、経営への距離がぐっと近くなる。そこで出世して、経営陣に加われば、50代になっても60代になっても働く場を確保できるのだ。

大企業にいたままでは、50歳を過ぎても大した役職がもらえず、50歳半ばで役職定年を迎え、閑職に追いやられるかもしれない。定年まで居続けたとしても、その先は保証されない。それと比べたら、地方の中小企業で勝負をしたほうが、未来に希望を抱ける。
企業経営なんて自分にはできないと思うかもしれないが、最近は無料で経営指導してくれる自治体も増えている。とくに地方自治体は税収を確保するために必死だから、地元企業に入り、立て直しを図ろうとする意識の高いビジネスパーソンがいたら、喜んで全面サポートするだろう。

業態変革の先達は地方にたくさんいる

そうはいっても、ほんとうに40代、50代のミドルエイジが、新しいビジネスを始めていいのか、不安に思う人もいるだろう。だが、読者が思っている以上に、会社を業態変革させて成功したり、サイドビジネスにチャレンジするミドルエイジの経営者は多い。ここでは2人の事例を紹介しよう。
二軒茶屋餅角屋本店(三重県伊勢市)の第21代目の当主・鈴木成宗氏。彼は、東北大で微生物の研究をしていたものの、店を継ぐため実家に戻る。だが、もう一度微生物を勉強したいと思い立ち、三重大で博士号を取って、そこからクラフトビールの醸造を始めた。いまや国内外で人気を博すクラフトメーカー「伊勢角屋麦酒」を築き上げた。

飛騨高山で瓦かわらを施工している創業約70年の会社の3代目の森孝徳氏も、本業以外のビジネスに挑戦する経営者の一人だ。森氏はスマホやお金など人工的なモノから解放されて、沖縄の無人島で大自然を楽しむ「ヤバイ無人島アドベンチャー」を始めようとしている。ガイドブックには載っていない体験ができるというだけあって、子どもから家族連れまで幅広い層に支持されそうだ。運営資金は、いま話題のクラウドファンディングで募った。
このように、時代の変化に応じて、本業以外で新たにビジネスを行なうミドルエイジの経営者は地方に多く存在し、彼らから参考にできるところはたくさんあるだろう。

成毛 眞(なるけ・まこと)

インスパイア 取締役ファウンダー 1955年、北海道生まれ。中央大商学部卒。マイクロソフト社長を経て投資コンサルティング会社インスパイアを創業。書評家としても活躍。著書に『黄金のアウトプット術 インプットした情報を「お金」に変える』『成毛流「接待」の教科書 乾杯までに9割決まる』『AI時代の子育て戦略』など。

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