中国が「改革開放」から40年周年を迎えました。その間の平均成長率は9.8%。世界に例のない高度経済成長を実現しましたが、その裏には多くの闇を抱えています。

貿易戦争で墜落する中国、習近平を追い詰める改革派と解決困難な4大社会問題とは 【引用】貿易戦争で墜落する中国、習近平を追い詰める改革派と解決困難な4大社会問題とは

終わらぬ米中冷戦、米国が突き付けた合意書を中国はのめるか?

中国「改革開放」から40年

12月18日は、鄧小平(とうしょうへい)によって始められた「改革開放」から40年たった記念日にあたります。

中国経済が破竹の成長を始めたのは、1978年12月18日です。
鄧小平は、中国経済の市場化を目指しましたが、党内には「市場経済」という言葉に強い拒否感があり、
これをなだめるべく市場経済に「社会主義」という形容詞を付けるほどでした。

中国経済成長の副作用「4大陰り現象」は解決困難

過去40年間の平均成長率は、9.8%にも達しました。世界に例のない高度経済成長を実現しましたが、その裏には多くの問題点を抱えています。

<その1. 環境破壊の凄まじさ>

大気汚染を筆頭にして、土壌汚染や水質汚染など「環境崩壊」という言葉がふさわしいほどです。農村部には、「ガン村」と言われるように特定地域で集中的に癌患者が発生しています。この「ガン村」が約3000箇所あると指摘されています。

<その2.一人っ子政策による極端な「少子高齢化」の進行>

一人っ子政策が、過渡的に生産年齢人口(15〜64歳)比率を増やし、これが高度経済成長に多大の寄与をしました。しかし、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に生む子どもの数)は、世界最低ラインに落込んでいます。2015年に1.05人(人口の横ばい維持には2.08人が必要)まで下がっています。日本を下回る状態で、将来の人口動態に危険信号が出ています。現在は、この種の統計発表を中止するほど追い込まれています。

<その3. 不動産バブルがもたらす家計の過剰債務>

習近平政権になって、意図的に不動産バブルによって住宅ブームを引き起こして、景気のリード役に仕立てあげました。国民は、住宅の高値に怯えて先を争い高額の住宅ローンを組み購入しました。現在、これが家計を圧迫しており、個人消費鈍化の大きな要因になっています。

<その4. 不動産バブルがもたらす中国経済全体の過剰債務>

中国の抱える債務残高は、対GDP比で260%以上に達しています。これ以上は債務を増やせない。そういう限界状況において、「信用収縮」が起っています。金融機関が新規融資を渋る状況では、企業の資金繰りがつきません。国有企業は、国有銀行から融資を受けられます。民営企業には日本のような「メインバンク」がありません。非金融機関のシャドーバンキング(影の銀行)からの融資に頼っています。この脆弱性が、金融リスクを生み「地雷原」となります。

改革開放40年間の光が、平均9.8%の成長率としましょう。その影は、誰でも前記の4点を挙げると思います。今後、潜在成長率低下の中で、これらの難題をどのように解決するのか。舵取りは極めて難しいのです。

「合意書」の焦点は4点

「合意書」の焦点は4点

難題は、これだけではありません。現在、米中貿易戦争が「休戦」とはいえ、米国政府から来年2月末までに米中首脳会談で合意した5項目(うち、1項目は実行中)の「合意書」を要求されています。

合意できなければ、米国の関税第3弾2,000億ドルの関税率が25%に引き上げられます。米国は、すでに官報で告示しました。
米中で合意書を求められている項目は、次の通りです。詳細な説明は、当メルマガのバックナンバー11号(12月6日配信)を参照してください。

  1. 米企業への技術移転の強要
  2. 知的財産権の保護
  3. 非関税障壁
  4. サイバー攻撃

口約束ではなく「文書化」して確実に実行させる
ムニューシン米財務長官は12月18日、関税を巡る米中間の休戦が終了する2月末までに「合意内容の文書化」に取り組んでいると『ブルームバーグ』のインタビューに答えています。

この文書化が重大な意味を持ちます。米中が目指す正式合意には、中国が取り組む構造改革のスケジュールや検証方法について、ムニューシン氏は「十分に具体的」な内容が盛り込まれる見込みだと語りました。

前記の4項目について、米国は単なる口約束で済ますことなく、構造改革のスケジュールや検証方法を盛り込まなければ、合意書を取り交わさない。もし、中国がそれを渋れば、米国は3月1日に予定通りの関税率25%へ引き上げると通告しているのです。

中国は、関税第3弾の追加関税が引き上げられれば、経済に重大な影響が出ることを懸念して「休戦」を選び、5項目についての合議に同意した背景があります。

最後は、米国の意向に沿った合意書にサインして、米国の「軍門」に屈すると見るほかありません。

中国にはまだ、米国と真っ向から戦う経済力がない

中国にはまだ、米国と真っ向から戦う経済力がない

この米中合意書が公表された暁に、中国国内でどのような反応が出るでしょうか。
米国の知的財産権を守って、強制的な技術移転を迫らない。サイバー攻撃もやりません、などという合意内容になれば事実上、「中国製造2025」は宙に浮くでしょう。

その上、ファーウェイはイラン輸出規制違反によって、米国からソフトと半導体の輸出禁止措置を受ければ、ファーウェイの通信機製造がストップすると指摘されています。「中国製造2025」の中核は、ファーウェイが担っているのです。

ファーウェイが、米国の制裁によって製造機能を大幅に制約される事態になれば、「中国製造2025」は中核を失ったのも同然となるでしょう。中国の産業構造高度化計画は、とても2025年に達成できるどころか、「中国製造2035」になって2035年へずれ込むであろうという指摘もあります。

「中国製造2025」の推進役は、習近平氏と言われています。習氏が米中貿易戦争に対して当初、強硬論を述べ「徹底抗戦論」を主張した裏には、米国が「中国製造2025」の棚上げを狙っていると見たからです。

そこで、自らのメンツに泥を塗られたと感じた習氏は、米国へ同等の報復策に出たものと見られます。中国の経済官僚はここを問題視し、中国経済を必要以上に減速させたと批判しています。中国はまだ、米国と真っ正面から戦う経済力がない。こう冷静に判断しているのです。

中国の経済官僚は、米国へ留学した人々が多く、米国経済の実力を認識しています。副首相の劉鶴氏や中国人民銀行総裁の易鋼氏も米国留学組です。易氏の場合、米大学で終身教授の待遇を受けていたにも関わらず、その職を投げ打って帰国したと言われます。習近平氏を取り巻く一握りの民族主義者グループとは、その視野が異なります。

最強硬派の習近平氏には打撃

最強硬派の習近平氏には打撃

ここで、1つのエピソードをお伝えします。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月16日付)からの引用です。

権威ある清華大学の何百人もの卒業生は、ある教授(注:胡鞍鋼教授)の解任を求める嘆願書を出した。この教授が、中国の米国に対する優位性を誇らしげに主張し、当局者や市民を「ミスリード」したというのが理由だ。この批判は、中国政府が対米関係で対応を誤ったとの見方を示唆している。

精華大学の胡鞍鋼教授と言えば、北京大学の林毅夫教授と並んで有名な「御用学者」です。根拠もなく、中国経済は米国経済を抜くと言い続けてきました。例えば、胡鞍鋼教授の場合、『かくて中国はアメリカを追い抜く』(PHP研究所 2003年)を出版しています。中身は薄っぺらなものでした。

習近平氏も精華大学出身です。習氏の側近になっている胡鞍鋼教授の解任を求める嘆願書は、間接的に習氏への不信任と受け取られます。そこで、胡氏は習氏の庇護を受けて解職の憂き目に遭わなかったものと見られます。

しかし、中国の経済改革派が、習近平氏による言論封殺の中で、堂々とここまで見解を述べていることは、習氏への批判が相当な規模になっていることを窺わせています。

中国経済がすでに、貿易戦争の影響を受け、冒頭に挙げた4つの問題点とオーバーラップして、中国の経済基盤を揺さぶっていた証拠と言えます。現実に危機感が迫っていなければ、リスクを冒してまで反対の声を上げるはずもありません。こういう状況下で、米中貿易戦争の「合意書」が公表されると、経済改革派が実権を握る局面になるように思われます。

合意書」の内容が不明の時点で、このような議論は早計かもしれません。しかし、中国政府は4項目を受託するとなれば、「経済政策の正常化」が進むことは間違いないでしょう。

具体的には、米国の技術窃取をしませんとか、強制的な技術移転を迫りません、という誓約書を出す以上、中国の経済成長率は低下するほかありません。技術が手に入らなければ、設備投資をする必要もないからです。ファーウェイも、米国のソフトと半導体が輸入できなければ、生産規模の縮小は必至でしょう。中国のハイテク化はスピードダウンを余儀なくされます。

「中所得国の罠」脱出?

「中所得国の罠」脱出?

習近平氏は、自らの権力基盤を固める意味と「中所得国の罠」脱出目標を掲げて6.5%以上の経済成長率目標を立ててきました。「中所得国の罠」とは、1人当たり名目GDPが5,000ドル〜1万ドルに達した後、経済構造の高度化が進まず、長期にわたり1人当たり名目GDPが伸び悩むことを指しています。

中国の1人当たり名目GDPは、8,643ドル(2017年)です。これを1万ドル以上に引き上げて、先進国の仲間入りを狙っています。それには、「中国製造2025」によって産業構造をハイテク化する必要がある、という判断です。

しかし、他国の技術窃取や違法な手段でそれを実現しようというのは許されません。中国の倫理感では、それが許されると見ているところに大きなギャップを感じます。米国は、今回の「合意書」によって、そのギャップを塞ぐと意気込んでいるのです。

「中所得国の罠」問題について、北京大学がまとめた報告書「中国経済成長報告2017年」があります。今年1月初めに北京で発表されました。それによると、2017〜21年の5年間、中国経済の平均成長率は約6.5%になる。そして、2023年前後に、一人あたり平均GDPは1万2,500ドルの国際的ラインを超え、「中所得国の罠」を超越する、というものでした。ここでのポイントは、6.5%成長が前提になっています。

中国政府が6.5%成長にこだわるのは、「中所得国の罠」脱出がかかっているからです。問題は、2019年以降にどうなるかです。中国政府の顧問やシンクタンクは、2019年の経済成長率目標について、6.5%前後としている18年目標から引き下げ、6.0〜6.5%にするよう、指導部に提言している模様です。米国との貿易摩擦などを背景に、中国経済のリスクが高まるとみている結果です。

来年経済は波乱の幕開け

来年経済は波乱の幕開け

来年の中国経済を見る上で重要な前提は2つあります。
第1は、貿易戦争が回避される場合です。中国が、米国に対して「満額回答」すれば、正常化します。それは、皮肉にも習近平氏の敗北を意味し、中国の政治的な不安定化をもたらします。まさか、騒乱が起るとは思えませんが、習氏の政治責任が問われます。

これを契機に、経済改革派が経済政策の主導権を握り市場化を進める姿勢を示せば、米中関係の修復は部分的には可能でしょう。ただ、中国の謀略体質が暴露されたので、中国がグローバル化経済の枠組みに入ることはあり得ないでしょう。一度、信義の面でも警戒された国が、短期的に信頼を取り戻すことは不可能です。

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